アルフォンス・ミュシャのステンドグラス【聖ヴィート大聖堂】

Image

アルフォンス・ミュシャ

Image

アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)は、チェコ出身のイラストレーター・画家。パリで商業的なポスター作家として成功後、晩年は祖国に戻って油絵を描いていた。


ミュシャと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、柔らかい色彩で描かれた装飾的な女性像、印象的な曲線、アール・ヌーヴォーを象徴するポスター作品などだろう。


色彩豊かで華やか、どこか甘美で、視線を惹きつける。そんなイメージが一般的だ。当時のフランスで、ミュシャは絵だけではなくデザイナーとしても活躍し、大きな成功を収めた。


だが、その成功は、本人にとって必ずしも誇らしいものではなかった。彼はポスター画家として消費されることを嫌い、民族、歴史、精神性といった「重たいテーマ」を描きたいと考えていた。


そんなことから、祖国に戻ってから描かれた「スラブ叙事詩」の壁画とともに、人知れずステンドグラスの大作も残していた。


アルフォンス・ミュシャ-Wikipedia


Image

ジスモンダ


Image

広告・商品装飾用デザインとして描かれたイラスト


Image

スラヴ叙事詩(20作品のうちの一つ)


聖ヴィート大聖堂

Image

聖ヴィート大聖堂は、チェコの首都であるプラハのプラハ城にそびえるゴシック大聖堂で、歴代の国王が眠る最重要の場所。


一見すると「中世そのもの」に見えるこの建築だが、実はその歴史は、かなりねじれている。建設が始まったのは14世紀(1344年)。しかし完成したのは20世紀(1929年)。実に約600年後だ。つまり、聖ヴィート大聖堂は中世と近代の合作なのである。


その中にあるステンドグラスは、何人かの作家によって19世紀末から20世紀初頭に制作されている。ミュシャが制作したステンドグラスも、そのうちの一つだ。


聖ヴィート大聖堂-Wikipedia


ミュシャのステンドグラス

Image

大聖堂の数あるステンドグラスの中で、ミュシャが制作したのは、南側の側廊に位置する箇所。これがいわゆる「ミュシャの窓」と呼ばれている。


タイトルは、「聖キリルと聖メトディウス」。チェコ人のルーツであるスラブ民族にキリスト教と文字を伝えた聖人兄弟の物語が描かれている。


ゴシック建築の建物の側面に入っているだけあって巨大なステンドグラスで、全体がきちんと映っている写真はほとんどなかった。以下は細部の写真。


Image Image Image Image Image Image

ここのミュシャのステンドグラスの特徴は、以下のようなところ。


エナメル絵付け

全面に細かいエナメル絵付けがされている。ガラスらしさよりも、絵による表現が優先されている。ケイムの線も、絵の邪魔をしないようにしっかり考えて使われている。


「宗教×広告」の融合

BANKA SLAVIE(スラヴィア銀行)の文字が中央の下に大きく入っている。これはスポンサー、つまり資金の出資者のものだ。神聖な大聖堂に民間企業の広告が入っているのは20世紀という新しい時代の象徴でもあり、ミュシャがいかにグラフィックデザイナーとしてのセンスを宗教美術に持ち込んだかが分かる。



イラスト・絵画風の絵付け・デザイン

ステンドグラス用にデザインし直すことをせず、あくまでミュシャのイラストをそのままステンドグラスにする方針で作られている。


それは例えば以下の画像にある部分を見ても分かる。特徴的な渦巻きは、一番外側だけはケイムで、内側はケイムに似せた絵付けがされている。


Image

ミュシャのステンドグラス、実はこの大聖堂のステンドグラスよりもずっと古いものを、日本で見たことがある。


Image

アルフォンス・ミュシャ原画(1899年)、ルイス・バルメット制作(1906年)。


流石に大聖堂のステンドグラスよりは薄味ではあるが、エナメルで描かれた画風は共通しており、大聖堂のステンドグラスがどんなものかを想像する手助けになってくれる。


所感

エナメル絵付はステンドグラスを衰退させた原因とも言われる技法。ミュシャがなぜあえてそれを選んだのかはわからないが、おそらく自分の画風を維持したままステンドグラスというメディアで表現するには、そうするしかなかったのだろう。


大聖堂のステンドグラスは実物を見た訳ではないので想像になるが、前述の日本にあるミュシャのパネルを見る限り、


悪く言えば、巨大なライトボックス(広告看板)のようで、のっぺりしていて深みに欠ける。

良く言えば、色鮮やかではっきりした輪郭線により物語が直接心に飛び込んでくるという絵的な強さがある。


総じて、「それなりに良い感じ。」だと思う。


そして、ステンド(色ガラス)とペイント(塗装)の違い、「ステンドグラスらしさ」とは何か、を考えるきっかけになるステンドグラスでもある。


今の時点での所感はそんなところだ。


 Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


Top