ある夜、散歩をしていたら、一般の家庭にステンドグラスらしきものが入っているのが見えた。なかなか素敵なステンドグラスで、強く興味を持ち、自分の家にもステンドグラスを入れたらどうなんだろうなぁ・・・と思ったとする。
だだ、知識が全くない。どこに頼めばステンドグラスを作ってもらえるのだろうか。頼る人もいない。そんな方が、どうやって制作工房を見つけて実際に依頼をすれば良いのか。
効果的なステンドグラス屋さんの探し方・選び方を、少し考えてみた。
なお、今回は、良くあるステンドグラスのランプシェードや小物などではなく、上の画像のような、建築物に入れるパネル型のステンドグラスに限定した話である。
ステンドグラス工房・制作会社の種類・業界の成り立ち
そもそも、ステンドグラス業界!?というのはどうなっているのだろうか。一般の方にとっては、想像もつかないことだろう。
建物に関わるものであるから、少なからずハウスメーカーや建築関係の会社が関係している。例えば、新築の住宅にステンドグラスを入れる際などには、こうした会社を経由して、ステンドグラスの制作工房へ依頼がされることが多い。
ステンドグラスの知識や「つて」のある方は、業者を経由せず、直接ステンドグラスの制作工房へ制作依頼を行うこともあるだろう。ただ、もしかしたら、直接のやり取りは、初めての方には敷居が高いかもしれない。
さて、この2つのルートがある訳だが、それぞれに良し悪しがある。ハウスメーカーに頼めば、品質や信頼性などはある程度保証されるだろう。ステンドグラスも建物の一部ではあるので、そこは安心かもしれない。一方で、デザインが平凡であったり、意見・要望が通り辛かったり、割高なこともあるだろう。もしあなたに、ステンドグラスに対する強いこだわりがあるならば...是非自分の目で探してみて欲しい。
そこで今回は、直接ステンドグラス制作工房へコンタクトをとる具体的な手順をご紹介する。
私の個人的な試算では、ステンドグラスの制作を請け負っている会社・工房は、日本には大小合わせて600工房ほど存在している。これは、大よそ20万人の人口に対して1軒の計算だ。
その600工房を大雑把に分類すると、
昔からの由緒ある工房: 5
比較的大規模の制作会社: 10
小規模の工房・個人工房: 585
といった具合だ。それぞれをもう少し詳しくみていく。
昔からの由緒ある工房
日本初のステンドグラス制作会社である、宇野澤ステインド硝子工場の流れをくむような工房。公共の古いステンドグラスの修理に携わることも多い。
一応、何となく他の工房と区別をしてみたが、個人工房と同じようなものだと考えて良い。
比較的大規模の制作会社
従業員が数十人いるような、会社組織としてステンドグラスを制作している会社。多くの場合はステンドグラス以外のガラス製品も取り扱っている。建築会社と太いパイプを持っているところが多い。
分業制になっているのが主で、営業、デザイン、制作を別の人間が担当している。
どちらかと言うと万人受けするオーソドックスなステンドグラスが作られる。
デザイナー=制作者ではないことが多く、担当によって当たり外れがある。
小規模の工房・個人工房
一人だけでやっているか、+アシスタント数名くらいの個人工房。大手の制作会社から独立した人や、美術・工芸系の学校を出た作家系の人、趣味が高じて開業した人が多い。
オリジナルのステンドグラスパネル制作を専業で行っているところはごく僅かで、多くは、大手ステンドグラス制作会社の下請けや、一般の方向けのステンドグラス教室を営んでいる。
個人的には、このような個人工房へ依頼するのが最も良いと考えている。デザイナーと制作者が同一であり、その人の制作物がサイトに載っているので、良し悪しの判断がし易いからだ。
どうやって探すのか
さて、実際に具体的な制作会社を探す方法についてだ。
このご時世、やはりネット(Google)を使って検索していくことになる。そこでの効果的な探し方をご紹介する。
キーワードの選定
「ステンドグラス」というキーワードは勿論指定するのだが、これだけではあまり効率が良くない。ビッグキーワード過ぎて、結果が偏ってしまう。
先ずオススメするのは、「ステンドグラス」+「地名」だ。殆どのステンド工房・会社が地名を紹介文などに入れているので、漏れが少ない。
(例)
他には、「ステンドグラス」+「工房」「会社」「制作」「窓」などが考えられる。
実際に制作を依頼するのであれば、打ち合わせが可能な距離の工房が望ましい。だが、例えそうなくても、メールベースでやり取りするかたちで制作を依頼し、最後は現場に送ってもらう、という形も十分にとれる。従って、自分の近くの地名以外も検索対象にしてみよう。ここだ!と思った工房があれば、遠方でも良いと思う。
リストアップ
検索結果の上位30件(3ページ)くらいを、ざっとチェックする。30件のうち、5~10件くらいが、ステンドグラス制作工房のページだ。それはタイトルで大よそ判断できる。ちなみに、検索結果のほかのものは、結婚式場やステンドグラス教室へのリンクである。
なお、検索順位が上位だからと言って良い工房とは限らない。そこは無関係だ。ネットで営業活動しなくてもやっていける、知る人ぞ知る工房も多数存在する。
ホームページの見方
それぞれの工房のサイトを見る際には、サイト全体の雰囲気を感じながら、以下の2つのポイントを重点的に確認する。
★施工例
その工房の制作物を確認する。施工例、作品、WORKS、GALLERY などと書かれているところをクリックし、好みの作風、良いと思えるステンドグラスであるかをチェックする。
ステンドグラスはデザインが全てと言っても良いくらい、デザイン(線描きとガラスの種類)で良さが決まる。良いな、と右脳が感じるステンドグラスがあるかどうか。それが全てと言っても良い。
★担当者の人となりやBLOGなど
書かれた文章などに、その会社や個人の個性が滲み出ているはずだ。実際に依頼する場合は、メールや電話、実際に会って進めていくので、気分良く進めたいもの。その点でもここは重要だ。
他の、「技術的な文章」や「崇高な想い」などはあまり読まなくてもよいかもしれない。ステンドグラスの出来・見栄えに殆ど関係ないからだ。
各工房のアピールポイントとして良く出てくるパターンと、その読み解き方を以下に解説する。
古い工房である・実績が多い
確実なものを制作してもらえる安心感がある。ただ、古臭いステンドしか作れなかったり、設立当時の崇高な理念なんかはすっかり忘れられて、惰性で行っているところもある。
強度や耐久性が抜群
地震の多い日本であるが故に、どうしても気になってしまう人も多いこのポイント。一言で言うと、過剰に気にする必要はない。
そもそもステンドグラスというものは、割れやすいガラスと柔らかい鉛の桟(線)で出来ており、それ単体では決して丈夫なものではない。だが、多くの場合は普通のガラスとペアにして窓やドアに入れられることが多く、ステンドグラスだけの強度に頼った設置のされ方はあまりされない。
仮に単体で入れられたとしても、外気が当たらないような場所(室内の欄間など)であれば、よほど粗末な作り方をしない限りは、数百年は持つと思われる。ガラスは、割られない限りは半永久的に劣化しないし、鉛やハンダが酸化などにより劣化するのは、数百年単位での話だからだ。
ちなみに、ステンドグラスが壊れる原因の99%は、人の手による衝撃などであり、ステンドグラス自体の強度とは関係性が薄い。そう考えると、強度や耐久性にこだわることのナンセンスさが良く分かると思う。
100年以上前に作られた日本のステンドグラス。目に見える劣化はなし。
こだわりの制作技法
これは、見た目ではなく耐久性や強度に関係していることが多い。
高級なガラスを使用
一般的に、ステンドグラスで使用する最高級のガラスは、「アンティークガラス」という昔ながらの手吹き製法で作られた板ガラスだ。すべて外国製で、作るのに手間が掛かるため最高級であるのだが、それが絶対的に一番綺麗で良いガラス、という訳では決してない。機械作りでもきれいなものはある。単なる好みの問題だ。
アンティークガラスは、ガラス自体で見ると確かに綺麗だが、それを小さく切って使うステンドグラスなどでは、その効果が存分に発揮されることは少ない。
デザインが良い・デザインに自信あり。
絶対的な基準がある訳ではなく、好みの問題である。施工例を見て判断するだけ。
適正価格
HPで適正価格とうたっていても、相場より随分と高い場合もある。あくまで一般的な相場と比較しよう。ただ、ステンドグラスというものは価格が出し難いものなので、この段階では参考程度にしておこう。実際に問い合わせると、想像より安かったり高かったりすることもある。
いくつか良さそうな候補が揃ったら、次に実際にコンタクトをとってみる。
その先の進め方
メールや電話で、ステンドグラスを入れようとしている背景などを伝えたり、入れたいステンドグラスのイメージを伝えてみて、反応を見る。基本的にここから先の具体的な進め方は、人それぞれだ。
ポイントとして、必ず相見積(2つ以上の工房への見積)をとったほうが良い。これはステンドグラスに限ったことではないので改めて言うことでもないが、念のため。
この段階で、気になる価格の話についても、突っ込んだ話をしてみよう。その際に、相場より大幅に安かったり、高かったりする場合は要注意だ。偽物だったり、ぼったくられたりしているかもしれない。
電話やメールでのやり取りは、人と人とのコミュニケーションであり、エモーショナルなやりとりでもある。ちょっとした相手の言葉遣いや文面に、過剰に反応してしまうこともある。
ただ、ステンドグラスという工芸と美術の中間に位置するようなモノに携わる人間の中には、世俗とは離れた感じのアーティスティックな人間も多い。結果的に良いステンドグラスを手に入れるためには、初期段階のコミュニケーションで、仮に感じの悪さや違和感を感じても、過度に気にしない方が良いだろう。それよりも、その工房なり作家なりの制作物・デザインを最重要視するべきだ。
逆に、妙に事務的な対応をする工房の方が要注意だ。右から左への流れ作業的に、魂のないステンドグラスを量産している可能性がある。初めから商業的にステンドグラスを売っているところもあれば、長い年月を経て創作意欲が欠乏してしまった作家・職人も数多くいる。
この先は、じっくりとやり取りをしながら、最終的に一つの工房へ制作を依頼し、出来上がりを待つことになる。
建物に入れるステンドグラスは建物の一部であり、毎日目に入ってくる、家族のようなものでもある。抱いたイメージ通りか、それを上回るようなステンドグラスを、是非とも手にして欲しい。