サンドブラスターの導入 - 機器購入からセッティング、試作まで

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経緯・要件

フュージングで色々と試しているうちに、前処理としてサンドブラストが必要なことに気付いた。試しに外部で装置を借りて色々と試したが、やはり便利だし可能性を感じる。そうなると、手元にないと話にならない。


ちまたのサンドブラスト教室や本格的な工房では、半オリジナルで装置を組んでいるか、既製品では不二製作所という会社のニューマ・ブラスター(PNEUMA-BLASTER)という製品がかなり普及しているように思える。コンプレッサー込みで100万円以上はしそうな感じのもの。


そんなに大げさな装置は流石に導入できないので、以下の要件に合ったものを探すことにする。


やりたいこと

フュージングの前段階として、ガラスの表面を加工する。

フュージングの失透面など、大きな面の表面を削り取る。

ガラスの穴あけ、掘削、削り取り(ルーター替わり)。


要件

コンパクト。作業台の脇に置けるぐらいのもの。

低価格。可能な限り。

低騒音。最低限、昼間に騒音で近所迷惑にならないくらいは。

そんなに頻繁には使わない。たまにはガッツリ使うけど、普段は補助的な役割。


サンドブラスターの基本構造と種類

サンドブラスターとは、一つの機械だけで完結するのではなく、いくつかの装置が集まって、サンドブラスターというシステムが構成されると考えた方が良い。構造が割と単純なので、コンプレッサーと集塵機の部分以外は、自作する人もいるくらいのものだ。


すべてが一体になった装置というのは、業務用の特殊なものを除けば、存在しないと思われる。個々の装置が全く別の機能をもっているのと、重さなどの関係だろう。コンプレッサーは高圧で圧縮された空気を入れておく装置なので、頑丈=重い。砂のタンクは当然重い。キャビネも集塵機も金属であり、それなりに重い。つまり、全てが一つになっていたら、重くて運べなくなる。


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エアコンプレッサー

ピストンで空気を圧縮。

圧縮した空気を貯める。

空気を排出。


サンドブラスター本体

砂を貯めるタンクと砂が吹き出る先端部分であるブラストガン、それをつなぐホースから成る。圧縮された空気に砂を混ぜ、高速で噴射する。


キャビネット

サンドブラストを行うための、密閉された空間。砂・粉塵が舞わないようにするために必要。この中に手を突っ込んで作業を行う。これがなければ、部屋中が砂まみれになってしまうし、使った砂の回収が難しくなる。


集塵機

そのままだとキャビネットの中は空気が入ってくる一方で出ていかないため、気圧が高くなる。また、粉塵が舞って視界が悪い。

その両方を解消する目的で、吸引装置=集塵機が必要。なくても何とかならないこともない。家庭用の掃除機でも代用可。


アルミナと呼ばれる固い砂や、ガラスの粉が使われることが多い。



※サンドブラスターの種類

基本構造の違い

他にも種類はあるが、ちまたにあるサンドブラスターは、ほぼこのどちらかの方式を採用している。


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吸い上げ式(サイフォン式)

エアーの力で砂を吸い上げて噴射する。吸い上げるのに足りるだけのパワーのあるコンプレッサーが必要。


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直圧式

砂とエアーを一緒に噴射する。比較的コンプレッサーのパワーは低くても使える。



砂の充填方式の違い

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循環式

キャビネット内の砂を吸い上げて噴射し、落ちた砂をまた吸い上げるため、砂が循環する。吸い上げ式は循環式であることが多い。


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非循環式(回収・充填式)

キャビネット内の砂は、取り出されて外部のタンクに充填される。直圧式の場合は非循環式の場合が多い。


上の方で説明したのシステムは直圧・非循環式であり、今回構築するのも、そうである。深くブラストすることも想定しているので、ハイパワーに越したことはない。そうなれば直圧式が良いだろう、という結論だ。

購入機器

以上を踏まえて、購入した機器がこちら。


エアコンプレッサー

藤原産業 SK11 SW-231

オイルレス タンク容量 30L 低騒音モデル

PUMAというブランド名で有名なシリーズの、一番人気モデル。

価格と性能の兼ね合いを見て、Amazonにて購入。



サンドブラスター本体

ノーブランド 直圧式サンドブラスター 5ガロン

中国製の安価なものを日本で改造して売られているもの。

真っ赤っ赤なのがとても良い。



キャビネット

パオック(新潟精機)SB-07改

SB-07は吸い上げ・循環式として売られているが、それを改造してキャビネットだけにしたもの。サンドブラスター本体とセットで購入。偶然!?タンクと同じ赤。



集塵機

ノーブランド Jintai小型静音集塵機 ダストコレクターJT-26

中国製の安くて怪しいやつ。掃除機ではなく、集塵機っぽい集塵機が欲しかったので。Amazonで購入。



エアホース

エアコンプレッサーとサンドブラスターを繋ぐホース。5mで、径が7mmのもの。コンプレッサーと一緒にamazonで購入。赤。

一緒に写っているのは、一緒に買ったエアダスター(サンドブラスターとは無関係)。



砂(メディア)

サンドブラストをする際に、吹きかけるものをメディアと呼ぶ。ちなみに、吹きかけられるものをワークと呼ぶ。

アルミナの#120というものをサンドブラスター本体と一緒に購入(初期に16kg、後に追加で20kg)。



良く使われるメディアは以下のようなもの。

メディア 特徴
アルミナ サファイヤ、金剛砂、アランダム、モランダムなどとも呼ばれる。番手があり、数が少ないほど荒い。今回は#120を使用。
ガラスビーズ ガラスの粉。アルミナより研磨力は劣るが、表面の凸凹が滑らかになる。
樹脂系研磨材 ポリカーボネート・ナイロンなど。
クルミ あのくるみの殻。環境にやさしい。ガラスには使えない。これはもう全くサンドではないのだから、ショットブラストと呼んだ方が良いかも。


これらの機器・消耗品一式全てで、高性能なノートパソコンと同じくらいの値段。

セッティング

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コンプレッサーにエアホースを接続。なお、コンプレッサーは家庭用100Vで大丈夫だが、起動時に多大な電流容量が必要なため、コンセントをこれ専用にする必要がある。


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サンドブラスター本体にエアホースを接続。接続口のすぐ横にあるのは、エアーに混じった水分を除去する装置。


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水分除去装置と一体化した、圧力メーター付きのレギュレーター(圧力調整装置)。ここでエアーが砂タンクとホース側に分岐する。


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砂タンク下にあるつまみは、噴射される砂の量を調整するためのもの。


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タンクとキャビネの接続。開けられた穴にそのままホースを突っ込むという、何ともアナログな方式。


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キャビネットの中。ホースの先端のノズルから砂が噴射される。


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ノズルは口が1.8㎜~5mmのものがあり、小さいほど少ないエアーで動作する。この写真のは、セラミック製の1.8mmノズル。


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キャビネットはこのように開閉。ここからブラストするガラスを出し入れする。


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ケース外部の集塵機との接続部分。


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集塵機の内部。大きな布の集塵パックが付いている。


コンプレッサーの電源を入れると空気が溜まりはじめ、3分程度で満タンになり一旦停止。作業を始めてエアーが使われると、その都度再起動する。


試し彫り

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3mmのガラスを2枚重ねて焼いた6mmのガラスに、カッティングシートを2重で貼る。


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ブラスト後。文字以外の部分を3㎜ほど削った。直圧式は、ノズルを近づけ過ぎると威力が強すぎてシートが直ぐに破れてしまう。力の入れ具合(エアの圧力・砂の量・ノズルからの距離)が非常にシビアである。この写真でも、1枚目のシートはかなり破れてしまっている。


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ブラスト後のガラスを窯で焼いて、ファイヤーポリッシュを施した後。トップ温度は750度。ガラスはモレッティ。


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こちらは、サンゴバンのフラッシュを浅くサンドブラストし、ファイヤーポリッシュしたもの。



その他に幾つかのパターンでも試してみた。


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ブルズアイ×高温エナメル黒


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ブルズアイ3㎜×ブルズアイ2mm


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ブルズアイ3㎜×ブルズアイ2mm



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サンゴバンフラッシュ


アンティークの被せ硝子を使った掘り、特に深掘りは、マスキングがとれて被せの部分が削れると、それでもう終わりなので、かなりシビアである。被せ硝子は最高級の部類のガラスなので、ちょっと辛い。また、アンティークガラスはファイヤーポリッシュのような高温での焼成を想定していないので、少なからず失透してしまう。モレッティも失透多し。できればすべてブルズアイで統一した方が良いようだ。


マスキングは、厚いものを使えば頑丈ではあるが、手持ちのカッティングプロッターでは誤差が大きく奇麗に切れないので、駄目だった。深掘りするなら、マスキングを2重にする必要がある(全くズレずに2重に貼るのは至難の業だが...)。

評価

一言で言うと、ブラストしたものを見る限りは、「かなりいい感じ」。ただ、運用上、大変な部分が結構ある。


エア・コンプレッサー

そこそこうるさい。静音コンプレッサーとはいえ、ピストン運動を続けるため、車やバイクと同じようなもの。当アトリエはラーメン屋さんと焼き肉屋さんに壁一枚で挟まれた環境であるため、そんなに気にしなくて良い環境ではあるが、深夜の作業はちょっと無理だろう。ちなみにカタログスペックは67dB(50Hz、正面1m)となっている。


サンドブラスター

タンクの砂が、なかなか均一に出てこない。バルブの微調整や、タンクを動かして中の砂を均一化、ノズルを外して噴射しての詰まり解消、などをする必要がある。

ノズルの部分からわずかにエアー漏れあり。使えば使う程、徐々に漏れの量が増えていく感じがする。


キャビネット

視界が殆どない 笑。手にガラスを持ち、それに当たるエアーの感触頼りの、かなり手探りの作業になる。また、粉塵が漏れているようで、作業後は周囲が砂だらけになる。

内部に蛍光灯が備わってはいるが、暗い。


集塵機

布のパックが直ぐに目詰まりを起こし、吸引力が著しく落ちる。粉塵の量が物凄く、粉塵だけでなく再利用可能な砂も相当量混入している模様。

間違いなく改善する必要あり。


エアホース

最初の数回は良かったが、その後直ぐにメスのカプラ(サンドブラスターとの接続部))でエア漏れするようになった。一応使えるが一時停止中もずっと漏れていてコンプレッサーが再起動を繰り返すので、かなりのストレス。不良品だったのだろうか。分解・修理か、交換が必要。


問題なく削れるが、他の番手と比べていないので、何とも言えない。#100や#80の方が早く削れるならば、その方が良いかもしれない。1日中作業するのであれば、最低1、2回は砂をキャビネからタンクに補充する必要がある。砂の色は、白にしておけば良かったかもと、少し思っている。


全体

<良いところ>

削る性能自体は申し分ない。さすが直圧式だけのことはある。穴があくほど削れる。

初期投資以外は、低コストで運用できそう。消耗品は、砂くらい?、ノズルやホースの寿命もそんなに長くなさそうだけれど。コンプレッサーは壊れないでほしい。。


<悪いところ>

広い範囲を削るのが苦手。広い範囲を深く掘るのは、結構な手間を要する。ノズルが大きいほど一度に広くブラスト加工ができるのだが、コンプレッサーが非力で持続力がないため、今のシステムでは1.8mmノズルしか使い物にならない(ほかのノズルは少ししか試していないが、自分のような使い方の場合は)。

安定して砂が吹き出る時間が非常に短いため、休み休み行う必要がある。砂が吹き出る部分である、先端のノズル形状や圧力の具合にもよるが、5秒~30秒ほどしか続かない。コンプレッサーにサブタンクを接続して容量を増やすことができるので、そうすれば倍ぐらいの時間は持つようになるとは思う。

砂が舞う。汚れまくり、体にも悪い。正直、必要に迫られない限りはやりたくない作業...。キャビネットの密閉性と集塵機の性能を改善する必要アリ。


まとめ、これから

もし、本記事を見てサンドブラストシステムの導入を検討される方がいらっしゃるとしたら、今回の構成は、あまりオススメできない。うるさいし汚れるし、体に悪いから。エアーの力はとんでもなく強いので、万が一大怪我する可能性もあると思う。ただ、いろいろ出来そうで可能性を強く感じるので、必要に迫られば検討しても良いとは思う。


大型・高級サンドブラスターとの違いは、粉塵の除去力、ブラストの持続時間、操作性、粉塵の処理力、騒音など。肝心の削る力は、良く普及しているニューマブラスターの吸い上げ循環より強い。その点だけは本当に素晴らしいと思う。


今後、本格的に使うようなことがあれば、以下の点を改善したい。

エアコンプレッサーのサブタンクの増設。

集塵機の目詰まり解消or買い替え。粉塵・砂の分離(サイクロンアダプターの導入)。

キャビネットの粉塵漏れ対策、視界の確保。

砂の安定供給のための、水分除去装置の強化、エアホースの改善。

色々と書いたが、購入して何度か使用しただけの段階なので、今後、コツをつかんで上手く運用していければと思う。



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