前回でパーツができたので、パネルの実制作を行う。
制作
下紙と型紙。共にコピー用紙を使用。型紙のコパーの線は間隔を開けずに切っている。これを使ってガラスカットを行う。
ガラスカット完了。型紙よりほんの少しだけ小さく切れば、良い感じになる。ナギットは、下紙の形にあったものを選んで使う。
カットしたガラスは、全てのピースの断面をルーターで削っている(ナギットを除く)。
ガラスにコパーテープを巻いていく。今回はエドコ社の3/16インチ~1/4インチのテープを、ガラスの厚みに応じて使用した。
コパーテープ技法は、先ずこのようにガラスの縁に銅(copper:コパー)の粘着テープを巻いてしっかり張り付ける。
そしてそれを、ハンダで繋いでいく。ティファニーが考案したので、ティファニー技法とも呼ばれる。隙間にもハンダが流れるので、表裏のハンダが繋がって強度が出る。大きな隙間も大概はハンダで埋まる。
表をある程度つなげたら、裏返して裏も同様に。一度に片面だけを仕上げると全体が反ることがあるので、裏表を交互に何回かに分けてハンダし、完成に近づけていく。
ハンダする際、ガラスが動かないように、米粒大の蜜蝋(ワックス)をつかってガラスを下紙に固定している。今回はオデッセイのタッキーワックスを使用。
裏表のハンダが終わったところ。
続いて、外枠をケイムで作っていく。
あらかじめ全面ハンダを施しておいたケイムを下紙に沿って曲げ、それにパネルをはめこんで接点をハンダ付けする。
ハンダ付けが終わったところ。ここが実は結構ミソで、枠と中をハンダ付けする際に、全ての接点においてアールを付けて角を丸くしている。
このままでも綺麗だが、今回は硫酸銅でハンダを腐食させる。
腐食させて水洗いし、乾かした後にワックスを塗ったところ。
コパーのハンダ面は時間が経つにつれ変色しやすいので、ワックスは塗った方が良い。
コパー技法はパテ入れがないので、大幅に手間を削減できるのが利点ではある。ガラスも殆ど汚れない。ただ、強度はケイム技法で作ったパネルの方が高い。
コパー技法 | ケイム技法 | |
---|---|---|
良い点 |
●簡単・手軽に作れる。 ●味のある不規則な線の太さ。線の太さをテープの巻き具合や隙間の大小でコントロールできる。 ●パテ入れが不要なのでパテを乾かす必要もなく、制作に時間が掛からない。 |
●線の太さが均一になる。デザイン画の通りに出来上がる。 ●重厚感があり強度も強いので、建築物に入れるには向いている。 ●多少ガラスが小さくても、ケイムに隠れるので仕上がりに影響しない。 |
悪い点 |
●ラインの強弱が不規則であるため、設計通りの線の太さにはならない。 ●パネルの強度が、テープの粘着力に頼る部分がある。 ●ケイムに比べると強度が大幅に弱い。そのため大型のパネルには向かない ●ガラスの大小がそのまま出来に影響する。 |
●パテ入れが必要なため、その部分だけでも非常に手間が掛かる ●コパーと比べると、細かい表現はしずらい ●立体が簡単に作れない。 ●早く綺麗に作るには、熟練の技が必要。 |
*参考資料:コパーの幅(エドコ社)
サイズ表記(インチ) | /64換算 | ミリ換算(四捨五入) |
---|---|---|
1/8" | 8/64" | 3.2mm |
5/32" | 10/64" | 4mm |
11/64" | 11/64" | 4.4mm |
3/16" | 12/64" | 4.8mm |
13/64" | 13/64" | 5.2mm |
7/32" | 14/64" | 5.6mm |
1/4" | 16/64" | 6.4mm |
5/16" | 20/64" | 7.9mm |
3/8" | 24/64" | 9.5mm |
1/2" | 32/64" | 12.7mm |
端ガラスを使って同じようなテイストのケイムパネルを作ってみた。
こちらは取り付け用の金具。東急ハンズで売っていた小型のアングルを加工したもの。これを木ネジで開口に固定し、取り付けを行う。
取り付けは現場作業なこともあり写真がないが、手順等を簡単に記しておく。
①ステンドグラスは長方形と半円を組み合わせた幾何学的な形だが、開口はそこまできっちり幾何学的に成り得ない。ステンドグラスを、開口に合わせて可能な限り加工する。方法としては、ニッパーでケイムを切ったり、ケイムをソフトハンマーで叩いて潰したり。
②金具を開口下面の左右に1つずつ(上の写真の大きい方)、上面に1つ(上の写真の小さい方)取り付ける。
③ステンドグラスを金具に押し当て固定する。ギリギリの大きさであれば、パネルが開口のどこかに引っかかって固定されるため、テープや接着剤は不要。
④シリコン用のマスキング後、シリコンを手前の面から、開口とステンドグラスの隙間を塞ぎながら一定の幅で打つ。
⑤マスキングを剥がし、シリコンをならして綺麗に仕上げて完成。シリコンを打った後は金具は完全に隠れる。今回の現場は裏からのシリコンが困難で、かつ強度的に問題がないので、なし(本来は行った方がより良い)。
完成
2階のパネル。
1階のパネル。開口の奥側にパネルを配置し、手前にガラスの色が落ちるのを楽しむというコンセプト。
この日は曇り空だったが、晴れの日は強烈な西日が差すようなので、また違った表情を見せてくれると思われる。
アップばかりで、引きの絵を撮り忘れた...。螺旋階段を含めた全体での調和具合を知るために、そんな写真が必要だと今だから切に思う。
話は変わるが、螺旋階段の反対側に、素のガラスを1枚入れさせて頂いた。サンゴバンのサハラクリア。フランス製で4mm厚の、しっかりとした板ガラス。
ここに何のガラスを入れるかも、お時間を掛けてやり取りして決めさせて頂いたが、とても綺麗で調和しており、良かった。
このガラスが入った箇所は、ガラスの真ん中にある水平の板が2階から3階へと続く道の床で、その下が収納スペースになっている。
この木調のお家は、例えば、写真右下の格子はエアコンカバーになっているなど、隅々までセンスの行き届いた、本当に綺麗なお家であった。
今回はいつものケイムではなくコパーテープを使っての制作であった。パネルが小さくて完全に室内であれば、強度的にも問題ないので、このようなステンドグラスの在り方もOKなのだ。
このパネルはダルドヴェールも少し意識して制作したが、結果的には隙間はダルドヴェールほどランダムではなく、線は細いものの結構ケイムに近い仕上がりになった。
ただ、コパーで巻いたガラスとガラスの隙間は、間隔がある程度広くてもハンダで結構埋まるので、もっと、殆ど見た目がダルの様なテイストも可能である(ダルはガラスがもっとずっと厚いので、そこは表現しきれないが)。
お客様曰く、取り付けの日はあいにくの曇り空だったが、晴れの日は螺旋階段に強烈な西日がさすとのこと。
晴れの日の西日が楽しみになる、そんなステンドグラスでありますようにと、心から願っております。