ガラスとは - 成分と種類
ガラスは、ステンドグラスに限らずとも、窓ガラスやコップなどに使われる、ごく身近な素材だ。古代メソポタミアを起源とし、先人が改良を加えていった結果、現在のように広く普及した素材となった。
日本で、瑠璃(るり)、玻璃(はり)などと呼ばれ、古くから珍重された素材であったが、16世紀頃から西洋のガラスが入ってくるようになり、いつの日からかオランダ語のGlas=ガラスが定着し、一般的に使われるようになったようだ。
そんなガラスは、簡単に言うと、砂を1500度で熱して溶かし、それを冷やして作られる。
もう少し詳しく言うと、一般的なガラスは、主に以下の3つの材料から作られる。
珪砂(けいしゃ)
ガラスの主成分。二酸化ケイ素(SiO2)。石英が砂状になったもの。水晶も同じ化学式。その辺にある砂の主成分でもある。これを溶かしただけでも立派なガラスだが、他の材料を混ぜ合わせて扱いやすくするのが一般的だ。
石灰石
炭酸カルシウム(CaCO3)。チョークの粉や貝殻の主成分であり、肥料や食品添加物にも使われる身近な素材。ガラスを安定させて、耐久性を出す役割を担う。
ソーダ灰
炭酸ナトリウム(Na2CO3)。塩水などから作られる。洗剤などにも入っている身近な物質。珪砂の溶解温度を下げる役割があり、これによりガラスが適度に柔らかくなる。
このような素材から作られるガラスは、主成分の名前からソーダ石灰ガラスと呼ばれる。身近に見られる透明な板ガラスなどの一般的なガラスも、ステンドグラスで使われる板ガラスもソーダ石灰ガラスである。
安価で耐久性があるため最も普及しているが、熱にはあまり強くない(温度変化により割れるリスクが高い)。
これ以外にも、成分の違いで、ガラスには様々な種類がある。特に有名なものは以下の2つだ。
耐熱ガラスとして知られる硼珪酸(ほうけいさん)ガラス。電子レンジや直火での調理用、理化学用品として使われるガラス。硼酸という、ガラスの膨張率を下げて耐熱性を高める物質が多く使われるため、こう呼ばれる。
バカラのグラスやスワロフスキー、江戸切子でお馴染みの、クリスタルガラス。酸化鉛を主成分として多く含み、透明度・屈折率が非常に高く、光沢のある美しい輝きを放つ。指で弾くと「チーン」という心地良い金属音がすることも大きな特徴だ。鉛の代わりに酸化カリウムなど別の成分を含むものもある。
これら以外にも、二酸化ケイ素(SiO2)だけでできた石英ガラスや、ボヘミアガラスとして知られるカリガラスなど、多くの種類があるが、上の3つ(ソーダ石灰ガラス・硼珪酸ガラス・クリスタルガラス)がガラス製品のほとんどを占めている。
ガラス製品と言ったが、ガラスは自然界にはほとんど存在しておらず、我々が日常的に目にするものは全て人口のものである。
ちなみに、極わずかに存在する天然のガラスとしては、火山の火口付近から採掘される黒曜石や、隕石の落下地点や落雷の現場で偶然作られるガラスがある。
ガラスの性質
透明
ガラスは当たり前のように透明だが、それは、主成分である二酸化ケイ素が、入った光を吸収せず、反射も少なく、直進させる性質をもつからだ。
もう一つの理由は、内部に結晶が存在しない、液体質の物体であるから。そのため光が内部で散乱せず透過し、透明に見える。牛乳が白いのは光の乱反射によるものだが、それとは逆ということになる。
ちなみに、「失透」という、ガラスを電気窯で焼成する場面では良く使われる言葉がある。文字通り透明感を失うという意味だが、これは、ガラスを熱し、固形と液状の中間の状態を長時間維持した際に、成分が結晶化して透明度が失われることをいう。
ガラスは、透明であるがゆえに、他の色との干渉を気にせず自由に使え、容器にすれば中身が分かり、耐久性もあり、非常に便利な物質なのである。
液体
物質の状態に固体→液体→気体というのがあるのは理科の授業で習った通りだが、ガラスは、一見固体のように見えて、実は液体なのである。
固体の定義は、分子の組成が結晶化して安定した状態ということになっている。だが、ガラスは組成が液体のように流動的であり、非常にゆっくりではあるが分子が移動し続けている。ゆえに、非常に粘度の高い液体だと言われているのだ。
ただ、近年の研究で、やっぱり固体でしょ、という見方も出てきているので、実は何とも言えないところではある。
ちなみに、ごくたまに、古い教会にあるステンドグラスのガラスは、長い年月を経て下の方が垂れて分厚くなっている、と言われることがある。ただこれは、だから液体だ、ということにはならない。ガラスが液体だと言っても、そんなに短時間に形を変えることはないからだ。ステンドグラスを制作する人間ならば、教会で使われるようなアンティークガラスは厚みが全く一定ではない事を重々承知しているだろう。そんなガラスをカットしてステンドグラスに使うならば、厚みがある方を下に向けるのはごく自然な選択である。
別の観点で言うと、「ガラス」という特定の物質がある訳ではなく、冷えても結晶化せず硬化し、熱すれば液状になるという、ガラス状態の物質=ガラスなのだ。
「脆い」「割れやすい」
ガラスを切ったことがある人なら分かるが、ガラスを切るとは、傷を付けて割ることである。そんなことからも分かるように、ガラスは脆く、割れやすい。
だが実は、ガラスの強度は、理論上は非常に高いのである。ただ実際には、表面に細かい傷がつきやすくそこから割れてしまうために、もろいとされている。
成型しやすい
ステンドグラスで使われるようなシート状のガラスは、表面に傷を付けて割ることによって簡単に加工ができる。
また、水のように決まった凝固点がある訳ではなく、加熱して600度くらいから徐々に粘度が減り、溶かす、引き延ばす、吹く、などの様々な加工が可能になる。
分類 | 技法 | 説明 |
---|---|---|
ホットワーク | フロート法、ロールアウト法、吹きガラス、ホットキャスト、など | 電気炉を使った、工場などで大規模に行われる技法 |
キルンワーク | パートドヴェール、バーナーワーク、キャスティング(コールドキャスト)、フュージング、スランピング、絵付け、など | 電気窯を使った、一般の家庭でも行えるような技法 |
コールドワーク | ステンドグラス、アッシドエッチング、サンドブラスト、切子、接着、など | 火を使わない、常温で行われる技法 |
色ガラス
ステンドグラスを知らない人からされる、一番多い質問。
Q.ガラスの色はどうやってつけられるのか。
A.ステンドグラスを制作する過程で色付けをすることはなく、色の付いているガラスが外国で作られているので、それを入手し、切って使う。
では、ガラスを作っているメーカーでは、どうやって色付けされているのだろうか。一言で言うと、ガラスに金属(酸化物)を混ぜて発色させている。
ガラスの色 | 金属(酸化物) |
---|---|
赤 |
金、銅、コバルト、セレン+カドミウム、チタン |
ピンク |
マンガン+銅、コバルト、ニッケル、金、エルビウム |
オレンジ |
セレン+カドミウム、マンガン、鉄、ニッケル、セリウム |
赤紫 |
ネオジム、セレン、銅、金、マンガン |
紫 |
マンガン、ニッケル、金、セレン |
青 |
コバルト、銅 |
緑 |
クロム(緑系統の色はクロムが一般的)、鉄、銅 |
緑(蛍光) |
ウラニウム |
黄色 |
銀、ニッケル、クロム、カドミウム、セリウム、ウラニウム、チタン、鉄 |
茶 |
鉄+硫黄(+炭素) |
黒 |
コバルト、鉄、マンガンなど、濃い色を出すいろいろな着色剤を混ぜ合わせる |
乳白 |
フッ化カルシウム、フッ化ソーダ、リン酸カルシウム、蛍石、骨灰 |
例えば青いガラスであったら、着色剤として酸化コバルトを高温のガラスに溶かして着色する、という具合だ。ただし、乳白色だけは別で、酸化物ではなく、光を乱反射させる物質を混ぜ合わせている。
実際には同じ着色剤を使ってもガラスの成分の違いや、ガラスを溶かす条件によっても色が変わるので簡単な事ではない。上の表で、同じ金属が何回も出てくるのはそういうことだ。
また、ちょっと分かり辛いが大事な話として、「酸化」と「還元」が大きく発色に関わってくる、というのがある。出来るだけわかりやすく言うと、以下のようなことである。
酸化 | 還元 |
---|---|
完全燃焼 | 不完全燃焼 |
普通に酸素がある状態での、金属が酸素と結び付く反応 | 酸素を少なくした状態での、酸化金属から酸素が奪われる反応 |
酸化銅の場合の例 | |
酸化銅(CuO)を使った酸化反応 ↓ スカイブルー |
酸化銅(Cu2O)を使った還元反応 ↓ ダークレッド |
この酸化と還元の考え方は、陶芸で焼きを入れて発色させる時と同じ考え方だ。ちなみに、酸化反応では主に寒色系、還元反応では主に暖色系の色ガラスが作られる。ガラスに金属酸化物を入れて着色する技術は、古代メソポタミアの頃から盛んに行われていて、その時から酸化・還元がともに使われていた。
このような事からも分かる通り、一般人がガラスに色付けをすることは容易ではない。そのため予めガラスメーカーが色付けしたガラスを購入し、それを加工するのである。
ちなみに、何で銅が青なのか?といった、さらに突っ込んだ話は、非常に高度であったり、まだ解明されていなかったりすので、考えなくても良い。
ガラス豆知識
強化ガラスの原理
車の窓ガラスなどに使わている強化ガラスは、普通の板ガラスの3.5倍の強度をもつ。これは、ガラスの成分の違いで硬くなっている訳ではない。ガラスを作る際の冷やし方が違うだけなのである。
成分の違いで物質的に強いガラスは確かに存在するが、一般的に言われる強化ガラスは、そういった話ではない。
作り方は、700度前後に熱したガラスを急速に冷やすというもの。これにより表面と内部で相反する力を発生させ、ガラスの強度を飛躍的に高める。より詳しい説明は、強化ガラスでググると幾らでも出てくるので割愛する。
ちなみに、肉眼で普通のガラスと強化ガラスを見分けることは不可能である。そのため、ステンドグラス工房に運ばれてきた出所不明の板ガラスを何気なくカットした結果、木っ端微塵に砕け散ってビックリ、というのは、ステンドグラス工房あるあるである。
なお、強化ガラスは別名「安全ガラス」と呼ばれるが、それは粉々に砕け散ったガラスの破片が尖っていないためだ。
膨張と熱割れ
ガラスは、熱が加わると膨張する。そのため、ステンドグラスでハンダ付けをする際には、ガラスの部分が高温にならないように気を付ける。だがそれでも、「ピキ」という嫌な音と共に、稀に熱割れを起こす。
日常でも、直射日光を受けて温まったガラスが膨張して割れることがあるし、耐熱でないガラスのコップに熱湯を注ぐと割れたりする。
これらの割れは、熱っせられて高温になり膨張する部分と膨張しない部分で、体積の差が出て(出ようとして)割れるのだ。従って、ガラス全体で温度が上がる分には、差が出ないので割れは起こらない。
ガラスを電気窯で焼成するフュージングやパートドヴェールなどでは、ガラス全体で温度差が生じないようゆっくりと熱することにより、割れを回避している。
液体のくせに熱したぐらいで割れるなよ、などと思わなくもないが、簡単に割れてしまうのが現実だ。
ガラスのヤケ・ウロコ
ヤケ、ウロコ、水垢、などと呼ばれるものは、以下のような要因によって起こる。
●水滴が付き、ガラスの成分が染み出した結果、それが空気中の二酸化炭素などと反応。
●ガラスに酸が掛かる。
その結果、ガラスの表面が白濁したり(白やけ)、反射光が虹色に見えたり(青やけ)する。
ヤケは、長期間にわたって徐々にできていくように思われるが、1週間程度の短期間でもできてしまう。それは、光を一定の角度から見た時にだけはっきりと浮き上がって見える、非常に厄介なものである。 逆に、初期の細微なヤケは、特定の光以外では全く分からない。
ガラスにこびり付いた汚れは本当に落ちないと言われることがあるが、汚れではなく変質してしまっているので、普通の方法では取り除き様がないのだ。
不細工な網入りがらすの理由
街を歩けばどこにでもある、この網入りガラス。防犯用と思われている方が多いと思うが、それは違う。
実は建築基準法や消防法によって義務付けられているものなのだ(延焼の恐れのある部分の隣地境界線、道路の中心部線から3mいないの場合 厚み6.8mmの網入りガラスが必要)。
仮に火災が発生した場合、通常の網なしガラスであれば、火災の熱で割れてしまい、そのために火が燃え広がってしまう可能性がある。網入りガラスの網は、その時にガラスが割れても、ある程度形状を保つ役割がある。
ちなみに、封入されたワイヤーは簡単に切断可能、ワイヤーがガラスを割った時の破壊音を吸収してしまう、強化ガラスは網を入れられない、など、防犯性能は全く期待できない。
参考になる(した)サイト
専門的な事柄が、わかりやすい文体で書かれている。ほぼテキストだけ。
ガラスの街とやま。コンパクトに纏まっていて分かり易い。
QA形式で分かり易くまとまっている。
その他多数。
まとめ
●ガラスには様々な種類があるが、一般的なガラス(ステンドグラス用のガラス含む)は、珪砂・石灰石・ソーダ灰を主成分として人工的に作られる(ソーダ石灰ガラス)。
●ガラスが透明なのは、主成分の二酸化ケイ素が光を吸収しないのと、液体質であるために光が内部で乱反射しないため。
●色ガラスは、ガラスに金属酸化物を添加して作られる。
●ガラスは、急激な熱を加えると割れたり、逆に冷やすと強くなったり、表面が水分により劣化したりと、他の物質にはない独特な性質をもつ。
最近、電気窯を使ってフュージングするようになり、ガラスの組成や特徴を調べる機会があったので、今回はそれをまとめてみた。近々、フュージングの記事も書く予定だ。
以上。
こんばんわ。
今回はガラス知識全般についての解説ありがとう
ございました。
まさか液体?なんて思ってませんでした。
固いが割れる液体なのですね~