全面ハンダ
前回までで表裏の点付けが終わっている。そこへ、全面ハンダを施していく。
点付けの際もそうだが、フラックスは液体のものではなく、自家製のペーストを使用する。一見液体フラックスの方が付きが良さそうだが、飛び散ったフラックスがケイムを著しく劣化させるので、全面ハンダの際には作業性が悪い。ペーストだとそのようなことはないし、蒸発もしないので作業がしやすい。
全面ハンダの際にケイムを溶かしてしまうと、ものすごいタイムロスを食らう。今回も、ボーっとしていて一か所だけ豪快に溶かしてしまった。少しの溶かしなら小手先のテクニックで何とかリカバリーできる。だが、がっつり溶かしてしまうと、ケイムの表面をそぎ落として新たなケイムの表面だけを張り付けたりするような、大工事が必要になる。とても手間が掛かる。
小手先の温度が高い方が作業性は良いが、溶かしてしまうリスクが上がる。攻守のバランスの良い、絶妙な温度設定が大事になってくる。
全面ハンダを両面すべて終えたら、熱湯と中性洗剤でパネルを良く洗い、ペーストを完全に洗い流す。ペーストが残っていると、パテを入れた際に都合が悪い。
パテ
パネルの洗浄後、十分に乾いたらパテ詰めを行う。ケイムの隙間に水がたまりやすいので、一晩乾かすと確実だ。
白パテに松煙を入れて黒く色付けしたものを使用する。先ずはこれを、指先を使ってケイムとガラスの間に丁寧に押し込んでいく。
押し込んだ後、ヘラのようなもので、パテを更に奥に押し込む。指だけで完全にパテを詰めるのは難しいので、確実に奥までパテを入れるためにはこれが必須だ。
そのあと、はみ出たパテを千枚通しで切って、ケイムやガラスに付いた余分なパテも、この段階で出来るだけ除去しておく。同じ作業を、パネルの表裏両面に対して行う。
パテがある程度乾くまでには、最低でも1~2週間ほど掛かる。
腐食・仕上げ
パテ詰めから1週間が経過した。パテはまだ柔らかいが、仕上げができる程度には固まっているので、作業を進める。
先ずは、パテ詰めの時と同じ要領で、千枚通しを使ってはみ出たパテをすべて切り、ガラスに付いたパテをできるだけ綺麗に拭きとっておく。
この後にケイム(ハンダ)を腐食させるため、ケイムの部分は真鍮のブラシを使って表面を丁寧に磨いておく。
腐食は、今回は硫酸銅の水溶液2%と15%のもの、2種類を使う。スポンジを使って、やや強めに液を刷り込んでいく。
本来であれば2%のものだけで良いのだが、それだとあまりにも均一なテイストに仕上がってしまう。敢えてムラをつくるため、部分的に濃い硫酸銅を使うことにしてみる。
作業中は液が手に決して触れないよう、ゴム手袋を使う。使わなくても人体に大きな影響はないが、手に付くと、1~2週間は青い色が落ちないという事態になる。
表裏の作業が済んだら、水で良く洗い、乾燥させる。
硫酸銅で表面を腐食させる目的は、一番は見た目。一応、酸化から守る役割もあるが、副次的なものだ。
基本的にステンドグラスは透過光で見るもので、その際はケイムの部分は暗く影になり、色などあまり関係がない。ただ、反射光で見る際にはケイムの表面にも目が行くので、そこに風合いを持たせることは、意味があることだと考える。理想は、適度にムラのある、味わい深いテイスト、古美色。
パネルが乾いたら、ガラスの部分をウエスなどで丁寧にクリーニングし、完成だ。
完成
思った以上に赤が効果的で、良く目立つ。
クリア部分のアーティスタは、ストライエーション(筋のような模様)が美しい。フロートではなくこのガラスにして正解だった。
ケイムは、程良くムラのあるテイストに仕上がった。うっすらと玉虫色が出ているのも確認できる。
ココモの白が、薄っすらと赤っぽくなっていた。原因は不明だが、もともとこんな色のガラスだったのかもしれない。
全面ハンダで仕上げると、直線がほんの少しだけ揺らぐ。機械的な線にはならない。それを良しとするかどうかは、好みの問題だ。
振り返り
小さなパネルにフランシスW.リトル邸の要素を詰め込んだので、実物と違って粗密のバランスはやはり損なわれている。デザイン段階でそう感じたが、全くのデザイン通りに仕上がったため、実物でも同じ印象だ。
今回改めて再認識したのは、イラストレーターでのデザインの、全くのその通りにできるな、ということ。設計の段階で完成像をリアルにイメージしておかないと、制作の途中で苦しくなることもある。デザインは今一だけど作れば良い感じになるかな、などという考えは禁物だ。時間を掛けて作るに値するかどうかを、作る前に十分に検討しておく必要がある。
今回は色遣いが単純なので行わなかったが、ガラスの実際のイメージをデザインの段階でIllustrator上で張り付けることができる。そして、制作すると、ほぼソックリその通りに出来上がる。ライトのような幾何学的なデザインだとその傾向は顕著なので、今後は、その辺りを十分に肝に銘じておきたい。
技術的には、特に問題ない仕上がりだ。強いて言えば、全面ハンダの面がもう少し整っていても良かったかもしれない。
フランク・ロイド・ライトのステンドは、巷に良くある「綺麗なステンド」ではないかもしれない。クールだ。だからこそ、飽きの来ない、建物に馴染むとも言える。
ライトのパネルは、また近々、作ろうと思う。