東京都新宿区にある小笠原伯爵邸は、昭和初期に建てられた、一風変わった洋館だ。小笠原長幹伯爵の屋敷として建てられたが、戦中・戦後を過ぎ、紆余曲折を経て、現在はレストランとなっており、月に一度程度、無料公開されている。
月に一度、公開日はあるのだが、定員ありの先着制であり、早々に満員になるため、今まで時期を逃していた。しかし、ようやく今回、訪問することが出来た。
30~40人程度は来ていただろうか。なぜかとても人気がある。しかも若い人が結構多い。写真撮影が目的な人も結構いた。
後で調べて分かったことだが、L'Arc〜en〜Cielの叙事詩という曲のPVでここが使われているのだそうだ。それが目的、という人が多かったのかもしれない。
集合時間も特になく、入口での名前チェックの後は自由見学の方式であるため、殆どの場所を自由に見て回れるのが良かった。お店の従業員の方も、とても感じが良い。
入り口からしてもう凄い。装飾的。
このステンドは、元々あったものとは別物だそう。三知がデザインしたのだが、それが壊れたかどうかして、その後イタリアで作り直されたのだそうだ。
遠近法を用いて天空に舞い上がる鳩を下方から描いた、珍しいデザイン。
館内の窓の多くは、ロサンジュ(菱形のステンド)で統一されている。
ロサンジュ(Losange)とは、フランス語で菱形という意味。典型的なステンドのシンプルな模様。西洋に多いイメージがある。
補強がしっかり入っている。
これをステンドグラスだと思っている人は、殆どいないと思う。だが、正真正銘のステンドグラスだ。
この部屋の、外に面した窓の一つを見るのが、今回の目的。
この部屋の他の窓にも三知のステンドが嵌っていたそうだが、いまは別のモノ、ただの味気ないロサンジュになっている。三知のものと、ケイムの太さを揃えた方が良かったと思う。これは細すぎる。
他の窓のステンドがなくなり、この一枚だけが残っているのは、ちょっとした「奇跡」と言っても良いのかもしれない。
オパレッセントグラスが使われているので、部屋の外が中より暗いと、透過光が入らなくて重い感じになるのが残念。当日は曇り時々雨という空模様だった。
そんな悪条件でも、角度によっては綺麗に見える。
ステンドグラスは、良い感じに光が当たったその時に、最も輝きを放つ。
三知が制作した鳩山会館のステンドでもロサンジュと組み合わせたものがあった。
三知がロサンジュを選んだのか、ロサンジュありきで三知がそれに合わせたのか・・・。、
三知の全面ハンダ。
後から組んだロサンジュのライン。
三知が組んだロサンジュのライン。
外から。
ステンドは、結構たわんでいた。合わせガラスが入っていないから、年月が経ったら、そのうち壊れてしまうかもしれない。
小川三知の数あるステンドの中で一番気になっていたステンドが、この小笠原伯爵邸にある花のステンド。訪問したのが、透過光が少ない時間帯だったため本来の輝きを味わうことはできなかったが、思った通りの良いステンドだった。
先ず、ロサンジュの一部、しかも中央の下に三角に寄せて抽象化された花々をデザインする、という発想が素晴らしい。ロサンジュを残して、そこに花を組み合わせるというセンスに脱帽だ。
見る人に、おっ!と思わせる絶妙なキャッチーさがありながら、落ち着いていて洒落ている。全体感もある。既存のステンドデザインをなぞらず、きちんと考えている。
ガラスも、コテコテのオパレッセントではなく、適度に透けるものを使い、パステルトーンで統一された色使いも、流石三知だな、分かってるな、といったところ。こういうところを、三知は決して外さないイメージがある。
技術的には、ロサンジュもラインがあまり正確ではなく、全面ハンダも、盛りが多かったり少なかったりと雑な感じではあるが、それはあまり作品の価値に影響していない。
ステンドも良かったが、建物自体や他の調度品も素晴らしかった。晴れた日に、また別の時間帯に是非期待と思う。ランチは8,000円ぐらいからだそうなので、5年後くらい?!にまた訪問できればと思う。。