原画:杉浦非水 制作:松本ステンドグラス 「踊り子」
人をモチーフとしたステンドグラスを作ってみようと思い立った。先ずは、世にある既存のステンドを見直し、方向性を探ってみる。
人をモチーフとしたステンドグラス
ステンドグラスのモチーフには様々なものが使われる。だが、「人間」をモチーフとしたステンドグラスは、そんなに多くはない。
主な理由は、ステンドグラス特有の、ガラスが鉛の線で区切られている必要がある、というものだろう。普通のステンドグラスとして人をモチーフにしたものを作ると、どうしても不自然で不格好になりがちなのだ。例外として、ガラスにそのまま絵を描いてしまう「絵付け」のステンドグラスがあるが、これはちょっと特殊なものだと思う。
巷にある人をモチーフとしたステンドグラスを見てみると、大きく以下の3種類に分類できるようだ。
①写実系
②極端な抽象化
③絵付け
それぞれを、具体的なステンドをご紹介しつつ、少し掘り下げてみる。
写実系
Narcissus Quagliata 作
写真などを元に、それをそのままガラスと鉛の線で置き換えたようなステンドグラス。自ずと、線は複雑な曲線になり、ガラスは複雑な形となる。
写実性とガラス自体の綺麗さが両立し辛く、また、どうしても不自然さが拭いきれないので、イマイチな感じになることが多い。難易度が相当高くなるので、頑張ったで賞はもらえるかもしれないけれど、綺麗なステンドグラスだな、とはならないことが多い。
特にケイムで組む場合は、線の強弱が使えないので、方向性としてかなり苦しい。中途半端に写実的だと、稚拙な印象を受けることもある。
極端な抽象化
横浜市開港記念会館 「箱根越え」
この手のステンドは、どうしても平面的で可愛い感じになってしまう。狙ってそうしているのなら良いが、そうでない場合は、残念な感じになってしまうことが多い。
また、人を構成する要素として最も重要な顔のパーツが、ステンドで表現し辛い、顔の輪郭に対して宙に浮いているようなものなので、それを無理やりステンド化すると、どうやっても垢抜けない感じになってしまう。
イラストチックな、抽象化されたステンドグラス向きの絵が描ければ良いモノに仕上がることもあると思うが、ほぼ、そんな上手くはいかずに、不時着してしまっているものが殆どだ。抽象化の技術・センスが問われる。
絵付け
目白聖公会
ケイムの線などあまり関係なく、ガラスに専用の塗料を使ってバリバリ描いていくので、描き手の腕があれば相当なモノが出来上がる。
ただ、ステンドグラスでなくても、普通の「絵」で良いのではないか、「絵」には勝てないのではないか、と思ってしまう。ステンドグラスというものの本質からは離れたところにあると言うか。
ステンドグラス史を振り返っても、絵付けのステンドグラスが台頭した時代にステンドグラスがその本来の輝きを失って減退していった、というのがある。そんなところからも、絵付けステンドが本筋から外れたやり方なのが裏付けられる。あくまで、こういった表現方法もある、ということだと思う。
原画:アルフォンス・ミュシャ 制作:ルイス・バルメット制作 「夕べの夢想」
デザイン
さて、そんな現状を踏まえて、人のステンドをデザインしてみた。とりあえず、
●ステンドグラスの絵柄の基本は抽象である
●不自然な線をできるだけなくす。
●できれは、既存のものとは一線を画すような
という方向性で考え、最終的に、
●線を一筆書き
●シルエットだけは写実的
●線で立体を表現する
ということに、自分の中で落ち着いた。
これは、簡単に言うと、適当な人の写真を見ながら、イラストレーターで一筆書きしたものだ。デザインの細かい過程の話は沢山あるが、今回は割愛する。
出来上がったものは、勿論、無数にある選択肢の中の一つに過ぎないが、まあ今回はこれを実際に制作してみようと思う。
上の画を反転したもの。ステンドグラスは、基本的に両側から見るものなので、このチェックは必須。
製図・ガラス案
サイズはW345・H460で、110ピース。ケイムは、中がFH4だけ、外枠をFH12とした。
そして、肝心のガラスは、とりあえず以下のように。
仮である。自由度が高く選択肢が無数にあるので、それがゆえ逆に難しいパターンだ。
シンプルに、最小限の色数・ガラスの種類でいきたいところ。ベース+ワンポイントぐらいで、線を活かしたい。と思っていたが、ど派手にするという真逆の選択肢も考えられるな、と思ったりもした。その折衷案で、とりあえずこうしてみた。
時間を置いて、再考し、最終決定にしたい。
とりあえず今回は机上の作業だけで。次回から、実制作に入る。