ヤカゲニー社のスティップルという種類のガラスだけを使ったステンドグラスパネル。前回でデザインが描けたので、今回は制作編。
制作
今回制作するパネルの下紙と型紙のデータ。これをA3で印刷すると8枚になるので、つなぎ合わせて使う。
今回もコピー用紙を型紙にした。ペラっペラだが、もうこれに慣れてしまった...。
ガラスをトレーサーにのせて色を確認しつつ、ガラス選び。
ガラスを型紙に沿ってカットしていく。
マッターホルン、カット完了。
左右で明暗の差を出して立体的に見せるのが狙いだが、ケイムの線がないから今の段階ではそれができているか、イマイチわからない...。
ノイシュヴァンシュタイン城、カット完了。
屋根の色が実物と違うのは、空の青と差を出すため。緑がかった朱色にした。ガラスだけで見ると、情緒的で良い感じに見える。黒く太いケイムの線が入ると、まあ全く違って見えると思うが。
今回は、下紙を2枚用意して、ケイムも事前にできるだけ用意。微妙なラインや、アールのきついラインは、ケイムをガラスに沿わせて曲げるだけでは決して加工できない。中空で頑張って曲げる。
マッターホルンのガラスカット、完了。
ノイシュヴァンシュタイン城も、完了。
早速組んでいく。デザイン画に忠実かつ隙間が空かないように。当たり前のことをするのが、難しい。ケイムは外枠がFH12h、中はすべてFH6s。
例えばこの5番のガラスなんかは、カットがいくら正確でも、隣接するピースとピタット合うはずがない。10ピース以上のガラスに接していて、それぞれが微妙に大小ある訳で...、合うはずがない。
個々のガラスをしっかり固定して、隙間が空いていないか注意しつつ、時にハンマーで強く打ち込んだりしながら、慎重に組むしかないのだろうと思っている。
ガラスを打ち込んで強引につじつまを合わせることもできるが、それが嫌なら、別に紙を用意して、ガラスの隙間の空き方を徹底的にシミュレーションしても良い。その方が、デザイン画通りにきっちり組めるという点で、理想的だ。
特に線にこだわりがなく、勘と成り行き任せならばよいが、Illustratorで可能な限りシミュレーションして完全にその通りに組みたいのならば、従来の組み方から独自にアレンジしていく必要があるだろう。
マッターホルンの組み、完了。
ノイシュヴァンシュタイン城も、完了。
ハンダ。ここからが大変。表面を終えてこれは裏面の様子。作業台の上では、半透明のスティップルは裏のケイムの具合が透けて見えないので、トレーサーを下に敷いている。そうすると、表裏のケイムのズレを直すのに役立つ。
ここでの注意点として、ハンダした直後にトレーサーを敷くと、熱でトレーサーの表面が溶けてしまうということ。今回はそれに気付くまでに結構溶かしてしまった...。
続いて全面ハンダ流し → 完了。
最近気づいたのだけれど、ハンダをするとパネルのサイズが縮む気がする。おおよそ、500mmにつき、1mmぐらい縮む。
今回のパネルはW1500・H500で、たて1mm、横3mm程度小さく仕上がった。経験豊富な職人さんからも、ステンドグラスって作ると少しだけ小さく出来上がると聞いたことがあるが、同じ原因なのだろうか...。
パテ入れ完了。パテは乾燥を早めるために油を少し抜いて使用。
今回はパテの乾燥を促すために、ホワイティング(炭酸カルシウム)を使用した。
これが今回使用したホワイティング。アメリカ製。
スティップルは、筋や気泡や凹凸が多いので、パテがどうしても入り込んで取れなくなる箇所が出てくる。テープで養生してパテ入れをして、入り込むのを防いでも良いが、しなくても何ら問題はない(完成した時、変に見えない)。
1週間程度でパテがある程度硬くなった。ケイムを磨いて硫酸銅で腐食させ、ササっとクリーニングして、完成。
スティップルは表面に艶がないガラスなので、曇りをとるという作業は不要。クリーニングは比較的手間取らない。ケイムからはみ出してくるパテをひたすら切って、ガラスに付いたパテを除去するだけ。勿論、決して楽な作業ではないけれど...。
名入れ
今回は、僭越ながら名前を入れさせて頂いた。
右下に入れたかったのだが、前回も書いたようにスティップルは焼けるガラスと焼けないガラスがある。こちらは焼成前。
...この通り失敗した。とても表情がある良いガラスだったので、かなりの失望感だった。事前にテストをしたにもかかわらず、このガラスが焼けないガラスだと気付けなかった自分を殴りたい気分...。
ちなみに、これは茶色のグリザイユをハインツのワインビネガーでミューラーを使って溶いたもの。
右下はあきらめ、左下のガラスに。この水色のガラスは乳白成分が入っていないので、焼いても全くガラスの色味が変わらない。ちなみにこれは焼成前。
今度のは、黒のグリザイユをキャノーラ油で溶いて描いた。水性と違って油性なので、弾くことなくクッキリ綺麗に描けている。綺麗すぎるので、一部を綿棒でぼかしているぐらい。
すり鉢に入れてすりこ木で溶いているところ。あってますか?(笑)
こちらが焼成後に組み込んだもの。緑のガラスは赤茶が良いが、青ガラスには黒が映える。
絵付けは全くの初心者なので、これから学ぶことが多い。
完成
実際に取り付けられる状況と同じく、裏から蛍光灯を当てて。
屋根の朱色のガラスは緑が少し入っていたけれど、緑は弱すぎて全く発色しなかった。
蛍光灯の光を暗めにした時の見え方。
こちらも、蛍光灯の光を暗めに。スティップルは、光が内部で大いに乱反射するので、やや暗めの光の方が綺麗にガラスの色が出る気がする。
自然光ではこんな感じに。全体に均一に光が当たると、均一に発色するので、ポップな感じに見える。
考察
マッターホルン
このパネルをはじめて見た何も事情を知らない方が、マッターホルンだと認識してくれたので、まあOK。左右の明暗は良い感じに出たと思う。
湖への映り込みは、もっと暗くても良かったかもしれない。
ノイシュヴァンシュタイン城
長方形の広い面積の部分が抜けたように見えて、悪い意味で目立つ。もっと暗い色、柄の強いガラスを使っても良かったかもしれない。ここが退屈な感じでなくなるだけで、かなり全体の印象が変わると思う。全体の中で一番気になったところ。
あとは、城の細かいパーツを何とか表現する方法はなかったものか、とは思う。
全体
空と湖を同じ色、単色の水色にしたのは、正解だったかどうかわからない。別の色にしていれば全体の印象が全く違って見えただろう。
また、スティップルは発色が良いので、全てスティップルだと明暗ができ辛い。光を調整して明暗を作る必要がある。
蛍光灯を裏から当てると、当て方にもよるが、強く当たっている箇所・そうでもない箇所ができる。今回はそれでたまたま上手くいった。
スティップルは、暗いガラス、透明ガラス、乳白ガラスなどの違ったガラスとの組み合わせで最大限にその効果を発揮するのだという気付きが、今回の大きな収穫。特にメリハリのあるドラマチックな絵の場合には、ガラスの「差」で魅せる必要があるのだと思う。
今回は油絵のようなこってりした仕上がりになったが、他のガラスとの組み合わせによって、スタイリッシュにしたり、和風にしたり、いぶし銀なテイストにも出来るだろうと思う。
このパネルは、大阪府高槻市にある、三康病院様に納めさせてきました。私は現場に立ち会いませんでしたが、階段の踊り場に、無事取り付いたとのご連絡を頂いております。
患者さんが足を止めて見て頂いているとのご連絡を頂き、大変ありがたく思います。
コロナ渦で大変な状況のなか、ステンドグラスは果たして一服の清涼剤に成り得るのかどうか。これからは、今まで以上に技量が問われるようになるでしょう。身の引き締まる思いがします。