Y様邸お手洗い明かり窓
このサイト経由でお問い合わせを頂いた、Y様。新築する家のお手洗いの明かり窓として、ステンドグラスをご検討中とのこと。
デザイン案を既にご自身で描かれていて、それを元にステンドグラス的に問題がないようにこちらで清書をさせて頂き、また、別のデザイン案を新規で何点かご提案させて頂くこととなった。
頂いたデザイン案の元ネタは、ライト設計のfrederick C. bogk houseに入っている一枚のステンドグラス。この邸宅はWebで情報が殆ど拾えない程マイナーだが、調べたところ、ウィスコンシン州のミルウォーキーで1916年に設計された邸宅であった。東京の帝国ホテルとほぼ同時期に設計されたものだ。そのため、日本建築の影響を受けている、ということがWikipediaに書かれていた。
話がそれるが、この邸宅以外にも、そんなに有名ではなく詳細な画像が手に入らないけれども良い感じのライトのステンドグラスは、まだまだありそうだなと、近頃感じている。frederick C. bogk house以外には、Frank W. Thomas Houseという建物の詳細を最近は探している。
今回のステンドのサイズは、W120mm×H840mm。こちらから新規で提案させて頂くデザインも、フランク・ロイド・ライト調オンリー、かつ、基本的に水平垂直の線だけの落ち着いたテイスト、という前提で、描かせて頂くこととなった。
Frederick C. Bogk House - Wikipedia
Frank Thomas House - Wikipedia
デザインとその過程
今回はA~H、全部で8案のデザインを提案させて頂いた。
A案
Y様案を下地にして、デザイン的・ステンドグラス的に整合性を持たせたもの。
ここでのポイントは、縦長のガラスの横幅をどの程度狭く出来るか。中央付近、左右対称に細い縦長のガラスが縦に3つ連なっている箇所があるが、本来はここの幅をもっと狭く、かつ、1つの縦長のガラスにしたかった。
だが、流石にそれは躊躇する。やってできないことはないが、ガラスが割れる可能性がちょっと高めだからだ。
そこで、横幅をある程度確保し、縦に3分割することで最低限の強度を保つこととした。ここでの具体的なガラスの大きさは、W11mm×H242mmだ。
中央付近は左右上下対称になっているが、上部と下部は違うデザインになっている。また、すべての縦の線は、横幅を16等分してできたラインのいずれかを使っている。
ケイムは、外枠がFH10、内側はFH5を使用。
B案
A案を気持ちシンプルにして上下対称にしたもの。シンプルながら、ライトらしさを感じられるようにデザインした。
主張は弱め。
実際にライトが設計した邸宅で、こんな感じのパネルが横に沢山並んだものがあったような気がする。
C案
ピース数を最小限に抑えてシンプルにしつつ、ライトらしさを損なわないようにしたデザインの試み。
粗密が良い感じになった。
ライトのデザインでは、直線と直線が交わる箇所で、「十字」にするか「T字」にするかが大事な選択だが、このデザインではそれが試された。
D案
縦方向のラインを強調した、ピース数多めのデザイン。
中央付近にもう少し工夫が欲しいと言えばそうなのだが、色々試してこのテイストに着地した。
この段階ではガラスが決まっておらず、入れている色はイメージだが、アンバー以外にもう一色、白あたりを使う想定だ。
E案
ライトが設計したDana-Thomas Houseのステンドの意匠が好きで、その一部である細かい正方形が並んだいデザインを使ってみた。
が、小さい面積のパネルではそのテイストを表すのが難しいと感じた。
F案
ライトが設計したCoonley Houseのステンドのデザインをこの狭い矩形に入れ込んだ意匠。
ここでは、内側のケイムに4mmと8mmの2種類を使っている。
一本のラインの中で、4mmから8mmに切り替わる箇所が1番のポイント。2番目のポイントは、同じ意匠が縦に繰り返されるところ。
個人的にこの意匠が好きで、他のお客様にも、いつも提案させて頂いている。
H案
ライトが設計したDarwin D. Martin Houseのステンドデザインを、部分的にそのまんま流用したもの。
今回は基本的に水平垂直のラインだけを使う、ということだったが、敢えて斜めの線を使ったものを1点だけ描いた。デザインを実際に見て見ると、意外とこれもアリだな、と思っていただけることもあるからだ。斜め線の角度は、水平線に対して35度と45度の2種類。
細かいので中の線は4mm幅。
この小さいパネルでもここまで細かくすることはできるんだな、と再確認できた。
ライトがデザインしたステンドグラスの特徴を前に考察 したことがあったが、実際には、殆ど言語化できないような微妙なニュアンスを駆使してデザインしている。
強いて言語化すれば、平凡さをなくし、適度に圧を加えていくような姿勢、あざとくならないように細心の注意を払いながら、絶妙な着地点を探るような感じとでも言おうか。
次回、ご提案の結果により、デザインの修正やガラス選び等へ進んでいく。